皆さん、突然ですが久御山町(くみやまちょう)って知ってますか?
え!あの「ものづくりのまち」として有名な久御山町をご存じないと?(;゚Д゚)
それでは、名前だけでも覚えていってください^^そして、出来れば知ってください…東京メトロの車輌外装部品や、2022年ワールドカップ開催予定のカタール・ドーハを走る最先端の電車のパーツがこの久御山町でつくられているということを!!
今回は、「久御山町 黄金の茶室プロジェクト」を通じて知った久御山町と、黄金茶室の製作に携わる技術者たちの奮闘をお伝えします!
12市町村がそれぞれ考えるおもてなし空間「一坪茶室」
お茶の京都ターゲットイヤーである本年度は、1年かけてお茶の京都博が行われています。そのメインイベント宇治茶博@文化〜「宇治茶」まつり〜(10月21日・22日開催)で披露される、山城地域12市町村それぞれが考える“おもてなし空間”を自由に表現した「一坪茶室」。
中でも注目を集めているのが、久御山町の黄金の茶室です。
黄金の茶室と言えば、豊臣秀吉が随所に黄金を用いて贅の限りを尽くしてつくった豪華絢爛な組み立て式の茶室で、当時の茶室建築とは一線を画すこれまでにない新しい茶室でした。
今回は、これに着想を得て現代版黄金の茶室として久御山町の技術を結集し、「久御山流『黄金茶室』」をつくりあげます。一体どのようなものになるのでしょうか…?
現代版の黄金の茶室をつくる…集まった“ものづくりのスペシャリスト達”
昨年12月よりスタートした久御山町の黄金の茶室プロジェクト。
デザイン・設計は東京大学生産技術研究所准教授であり、建築家である川添善行さんが担当。
従来は先に“かたち”があり、実現させるための技術を探しますが、今回は逆。久御山にあるものづくりの技術を生かし、そこから実現できる“かたち”を考えたデザイン・設計を行います。
そして、久御山町を代表して10社のものづくり企業が参画することになり、プロジェククトチームが発足しました。簡単にご紹介するとこのような会社です。
イーコット:アルミ型材加工やオフィス什器製造、鉄道車輌パーツの加工を行う企業。茶室の骨格となるパネル作成を担当。
マツダ:建築・鋼構造物校事業等を行う企業。「柱」の無い茶室の建込みを担当。
洛陽技研:電気・電子機器の設計、製造、調整を行う企業。茶室の照明を担当。
京都樹脂精工:樹脂の加工や小型精密機器の組み立てを行う企業。パネルフレームを担当。
ニューリー:イメージスキャナー、ソフトウェアなどの開発、製造、販売、サポートを行う企業。茶室の掛け軸作成を担当。
中沼アートスクリーン:スクリーン印刷、資材や関連機械の販等を行う企業。内壁のスクリーン印刷(黄金部分)を担当。
藤本製作所:ステンレス製の医療用品を製造・販売する企業。うす板の加工技術を生かして茶釜・ひしゃくの製作を担当。
コスモ機器:エレクトロニクス分野を核とした各種産業機器の設計から製作までを行う企業。真空技術を使用し、茶釜のコントローラを担当。
サンセイ:ヘラ絞り・プレス・板金加工を行う企業。つくばいづくりを担当。
カクワ:フィルム総合コンバーティング、特殊金属箔の製造販売等を行う企業。花器用フィルムを提供。
現代版の黄金の茶室のイメージは、千利休が板切れを集めて茶室をつくったような質素な構えでありながら、内部がほわっと黄金に光り輝くものなのだそうです。そして10月21日・22日に行われる宇治茶博@文化でのお披露目に向けて制作が進んでいるとのこと。
「見れるものならひと目見てみたい!」と、この茶室に強く惹かれたKYOTO SIDE編集部は実際に現地に見に行ってみることにしました。
黄金の茶室の仮建込みに密着!
10月某日、編集部は久御山町に生産工場を構えるイーコット株式会社にやってきました。
今日はここで、ようやく出来上がった3枚の骨格パネルを初めて実際に組み立ててみる仮建込みの日。
ほぼ1年がかりで進めてきたプロジェクトがようやく形となる日で、関係者が続々と集まってきます。
パネルは養生シートで表面を保護した状態での組み立てとなりますが、特別に黄金部分を見せてもらいました。
シートをはがし現れた表面を見て思わず「おぉ〜!キレイ!!」と感嘆の声をあげてしまう編集部スタッフ。
この美しい黄金の印刷は、文化財障壁画の高精細複製を得意とする中沼アートスクリーンの高度なスクリーン印刷技術です。(※アルミパネルに直接印刷されています。その技術もスゴイ!)
実はこの黄金印刷は、400年前のちょうど千利休がいた時代の金箔襖絵(文化財)を元に制作されました。
経年劣化した金箔面の複雑な表情まで見事に表現した図柄で、利休のいた時代の襖絵が現代の黄金の茶室に再現されるということに、ロマンを感じます。
仮組み作業が始まり、まずはパネルの足元を固定するための鉄骨土台を組みます。中にパネルを一時的に立てかけるための鉄枠が置かれ、その後10人がかりで1枚目のパネルが設置されました。
パネルは1枚あたり約3メートル✕3.5メートル、パネルはアルミ製で軽量化されているとは言え、重さは150〜180キロ。相当な重量です…。
足元をねじで固定し、パネルには、2枚目、3枚目を立てかけるための仕組みが施されています。
たった3枚の大型パネルを立てかけるだけ…一見簡単そうに見える作業ですが、パネルの高さや角度は建物の安全性を考えてすべて計算され尽くしたもの。微妙にずれていると組み上がらないし、倒れる危険性もあるので、非常に大掛かりで繊細な作業だと感じました。
内部の養生シートを一部剥がして照明の確認が行われています。
ゆらめくあかりに、400年前の金箔の襖絵を元にした黄金色の壁がキラキラと光り、その光景は想像以上の美しさで、見ているだけでうっとりしてしまいした…。
ここに畳が敷かれ、この日のためにつくられた茶釜、ひしゃくなどの茶道具、掛け軸や花瓶、つくばいといったしつらえが置かれ、実際にお茶が点てられ振る舞われるのだそうです。
この中でお茶が飲めるとは!!天下の太閤・秀吉の気持ちを味わえるまたとない機会になりそうで、KYOTO SIDEとしてもこれは見に行く価値があると自信を持って言える、いや、わたし達も当日行ってお茶を飲んでみたい!と思える逸品に仕上がっていました。
黄金の茶室プロジェクトの中心人物・イーコットの若き生産本部長にお話を伺いました
このプロジェクトの中心メンバーで、チームを牽引しつつ、骨格となるパネルを担当したイーコット株式会社の取締役であり、生産本部長である田邊剛一さんにお話を聞くことができました。
スペシャリストが揃い、順調に進むかに見えた黄金の茶室の製作ですが、実際にはつくりたい理想と実際の技術の壁という現実の問題に幾度となくぶつかり、苦難の連続だったそうです。
そして、自社ではこれまで久御山町内のものづくり企業同士、横の繋がりが無かったそう。今回のプロジェクトを通じて出来た繋がりを大事にし、久御山町のものづくりのチカラをPRできる機会にしたいと語ってくれました。
来年創業67年目を迎えるイーコットは、非鉄金属の総合問屋(販売)に加えて、様々なアルミ加工技術も自社で行っている会社です。
アルミ型材は、中を抜いて空洞化することによる軽量化と同時に、ネジ留めができるなどの加工が効くこと、そこに強度も加わることで利便性の高い素材。このアルミ型材加工技術をもって、黄金の茶室の要(かなめ)であり、土台となるパネルの作成を任されることになりました。
田邊さんは創業者の孫にあたり、12年ほどオフィスメーカーで営業やプロジェクトマネージャーを務めた後、4年前にイーコットへ戻り、若い力でグイグイと社内改革を進めています。社員さんが気持ちよく楽しく仕事が出来る環境づくりと、自分達がつくるパーツが何のどこにあたるものなのか、完成品を意識することでモチベーションをあげるという意識改革も行い、実はいま注目を集めている成長企業へと進化を遂げています。
ちなみにこの写真のパーツが何かわかりますか?
これは東京メトロ日比谷線の車輌パーツなんです。現在、全国的に鉄道車輌パーツのアルミ化が進められています。その理由はアルミだと鉄でつくるより重量が3分の1ほど軽くなり、大幅な電気代のコストカットに繋がるからです。2020年の東京五輪までに、日比谷線を走るすべての車輌がアルミ化され、そのパーツの一部の製作をイーコットが請け負っているのだそうです。
他にも、新幹線、そしてカタールの首都ドーハを走る最新型電車の車輌パーツも、その技術力を買われて任されており、久御山の企業が国内外の大企業と肩を並べながら製作を行っているという事実は、まるで下町ロケット!夢のあるお話に、ワクワクしながら聞き入ってしまいました。
ものづくりの町・久御山町へ黄金の茶室を見に行こう!
豊かな田園が広がる農業地帯であり、交通の要衝でもあることから“ものづくりの町”として発展してきた久御山町。今回の黄金の茶室プロジェクトのために集まった会社はいずれも優れた技術力を持ち合わせ、国内外で高く評価されている、久御山が世界に誇るものづくり企業です。
黄金の茶室の美しく貴重な建築美としつらえは久御山の技術力の結晶であり、その中でお茶をいただけるということは、他では決して味わうことのできない贅沢で夢のような時間だと思いました。
一坪の空間で表現される圧巻の「美」の世界を、ぜひ、ご自身の目でじっくり鑑賞してみてください^^
黄金の茶室は、下記の会場&スケジュールで見ることが可能です。
■■宇治茶博@文化
一坪茶室
10月21日(土)・22日(日)
10:00〜16:00 ※雨天時は中止の可能性あり
@塔の島
■■カブキモノ茶宴
11月4日(土)10:00〜16:00
11月5日(日)10:00〜15:00
@久御山町役場周辺
※第42回久御山町民文化祭・くみやま商工会フェスタ同時開催
※11月1日〜翌年3月31日まで、久御山町役場にて展示されます。