普段、降りない駅で途中下車したら、新たな発見があるもの。今回訪れたのは近鉄電車で京都から奈良へ向かっていると結構、人の乗り降りが多い小倉駅。一体、何があるのだろう~と途中下車してみたのですが、これが歴史と今が詰まったステキな街でした。
平日のお昼間というのに、やっぱり本日も乗降者の多い小倉駅。改札を出て人並に押されるように右へ曲がると、交通量の多い府道に出てきました。通りには大型チェーン店のレストランやお寿司屋さん、本屋さんなどが立ち並び、一見、どこの町にもありそうな幹線道路沿いの町並みです。
▲隣に走るのは近鉄電車
どっちに行こうかと悩み、とりあえず北へ向かって少し歩みを進めると、府道近くに茶畑を発見! そうでした。小倉があるのは宇治市。宇治といえばお茶ですもんね。なるほど~! と納得して府道に戻り、右手を見ると丸久小山園本店の看板が!
丸久小山園といえば元禄年間創業の老舗茶舗。初代が茶の栽培と製造を手掛けたのが始まりで、四代目以降はお茶の販売も行っています。そんな老舗の本店と聞けば行ってみたい。というわけで看板を目印に府道から右へ曲がると
あらビックリ! 雑多な雰囲気(失礼)の府道から一転。大きな家々が立ち並ぶ高級住宅街が登場するではありませんか。道は良い具合にカーブを描き、まるで街道のような雰囲気。住宅街をさらに東へ歩いていくと抹茶の良い香りがしてきましたよ。
抹茶作りのこだわりを肌で感じる
▲左が主屋。右に本社工場があります
駐車場から奥へ入ってみると立派な建物が。正面が主屋は昭和9年の建物だそうです。右手に洋館が付いているのは当時の流行ですね。専務の小山俊美さんにお伺いすると左側の日本家屋より洋館の方が坪単価の建設費がかな~り高かったのそう。そして日本家屋の方は非常に背が高いんです。「当時はこの辺りで一番、背の高い建物だったそうですよ」と専務さん。
そういえば、先ほどの古い道からちらっと見えたレンガの煙突。お伺いすると丸久小山園さんの煙突だそうで、聞けば一年に一回、新茶出る時期に最高級のお抹茶の原葉を作るための工場の煙突なのだとか。 ちょっと見てみたいな~と思っていたら、特別にご案内くださいました。
▲昭和初期のものだというレンガ造りの碾茶炉
「一年に一回しか使っていないもので、今は自転車置き場になっていてお恥ずかしいのですが・・・」とご案内くださったのはレンガ造りの「碾茶炉(てんちゃろ)」と呼ばれるもの。摘み取られた最高級の茶葉は蒸された後、この炉に入れられ三段のコンベア上を通って水分を除き乾燥されるのだとか。「工場の中は、まるでサウナのようになりますよ」とのこと。先ほど見かけた煙突はこの「碾茶炉」の煙突だったんですね。しかし、年に一回使うだけなのに、こんなに立派な炉があるとは。美味しい茶葉を作りたい、という情熱が感じられます。
▲壁を見ると茶箱がずらり。自社農園はもとより、名人と呼ばれる茶農家から茶箱に入れて茶葉が届けられるそうです。
▲一目見ただけで葉の美しががわかります。
そして本店裏にある茶畑も特別に見せてもらいました(常は入れませんが外から見学することは可能)。ここは丸久小山園の中でも最高級の抹茶用の茶葉を作る畑。ぷーんと肥料の香りがしています。「ここの茶畑では魚の頭や菜種油のしぼり粕など有機肥料のみを使っているんですよ」と専務さん。
抹茶や玉露、煎茶などは日光を遮るために黒い覆いをして作られますが、こちらの茶園は横にしか黒い覆いがないのです。伺うと「うちでは昔ながらの製法を守っておりまして、上には黒い幕ではなくよしずを張り、一度に暗くすると芽の成長が止まってしまうので、その上に徐々に藁を撒いて暗くしていくんです。そうすると薄くて緑が美しい茶葉が出来上がるのですが、その時の茶畑は本当にきれいですよ」。あぁ~その光景、観てみたい!
ところで丸久小山園の本店売店が併設されていまして、作り立ての抹茶ソフトクリームとほうじ茶ソフトクリームがいただけるんですよね。これは食べないとです。
▲左・ほうじ茶ソフトクリーム 右・抹茶ソフトクリーム
抹茶とほうじ茶、どっちも美味しそう・・・。迷った末、両方いただいちゃいました。乳製品が控えめなジェラートタイプなので茶葉の味がよくわかる! チョコレート色をしたほうじ茶の方は、香りも味も香ばしい一品。抹茶はまったり濃厚でクリーミーです。それから売店で水出しで気軽に飲めるポットパック式のお煎茶はペットボトルに入れて飲むのに良さそう。こちらと抹茶クリームロールをお土産に購入して、アイスを食べながら元の通りへ。
かつてこの街には巨大な池があった
もう少し北へ向かって歩いてみることにしました。しかし、本当に立派な家々だなあ。左右を見ればお茶屋さんが何軒か立っています。そこから先、こんもりとした森と共に巨椋神社が現れました。
▲下中 様々な絵馬の中に、こんな絵馬が! 絵馬を奉納したいほど禁酒を誓いたかったということ?? 下右 奉納された狛犬。奉納者の名前に「茶製中」の文字がみえます
この「巨椋」の字を見て思い出しました! かつて小倉には巨椋池という大きな池があったという話を!! 遡ること400年前。豊臣秀吉が伏見城を築城した際、城下を水陸交通の拠点にするため、諸大名に名じて宇治川を伏見城の近くまで迂回させ、淀川と宇治川を直結。そして巨椋池の中に堤を築いてしまったのです。そう、今も地名に残っている向島や槙島は本当にあった島の名前だったんですね。
▲地図でみるとこんな感じ
それまで陸路で京都⇔奈良を行き来していた人は池の東側を迂回していたのですが、池の中を突っ切れるようになったことで時短になったわけです。すごい! この堤、その名も太閤堤。荒業の土木工事でございます。そんな巨椋池ですが昭和16年に干拓されて農地になり現在は住宅地になっているそうです。また、近年では宇治川太閤堤の跡が発見され、遺構を残す運動もされているそうですよ。
社務所でお伺いすると「この前の道が大和街道ですよ」とのこと。なるほど。やはり先ほどから街道っぽいなと思っていた道は街道だったわけです。すると、この先で太閤堤にぶつかるというわけですね。というわけで
もう少し、北へ向かって先を歩いてみました。カーブを描いた道は雰囲気たっぷり。
道は緩やかな上り坂に。横の道とぶつかった辺りに蛭子嶋神社御旅所がありました。この辺りは、ちょっとした高台。とするとここの辺りが巨椋池の淵になるのかしら。御旅所を中心に辺りは高低差が大きいので、きっとここは神社の名前にもなった蛭子島があったのかなぁ。ここから今度は西へ向かってみました。
写真は、蛭子神社御旅所がある通りの一本南側の道から見たところ。かなりの高低差があり、やはりここから巨椋池になっていたということが分かります。
巨椋池をつっきる堤を歩いてみる
さて府道へ出ると道の向こうに雰囲気たっぷりの家々が。ここは三軒家という集落だそうです。
地図からも分かるように、太閤堤は「槙島堤」と「小倉堤」に分かれていて、巨椋池の中をつっきるのは小倉堤。ということは、この辺りから巨椋池の中をつっきる小倉堤がスタートするけですね。
▲三軒家の町並みは雰囲気たっぷり。
小倉堤は線路に沿って伏見の観月橋まで続いていきます。
堤はかなりの高台で、左を見ると建物なら2・5階ぐらいの高低差。やっぱり、ここが堤の上なんだなあと実感。
▲右が小倉堤。その右側がガクンと下がっています。
本当は先まで歩いていきたいけれど、今日は小倉を探検なので近鉄の線路までにして、次は地図を見ていて気になっていた槙島城跡へ行くことに。(ここからは歩いて1時間程の行程なので、歩きに自身の無い方は、再び巨椋神社へ戻ってくるところまでワープしてください)
蛭子嶋神社御旅所から大きな病院の前を通って蛭子嶋神社へ。そこから田んぼを見ながらのんびり歩き、大通りを渡って住宅街を歩くこと計20分。宇治川の西側、槙島にやってきました。
歴史的合戦の跡地へ
▲槙島公園にある槙島城記念碑
ここ槇島公園は非常に歴史のある場所なのです。再び歴史をさかのぼること約430年前。足利将軍家の家臣・真木島氏が、ここ槙島城を本拠としていました。室町幕府第15代将軍・足利義昭は数度による合戦で信長に追われ、槙島城に籠城。ここで最後の戦いとなる「槇島の戦い」が行われました。今は公園となっている、このような所でかつて戦が行われたとは!(ちなみに実際には、ここから南下し、住宅にぐるりと囲まれた小さな公園辺りに槙島城がったのではと言われています)
地名が土地の歴史を語る
▲上 田んぼの中の道を歩きます 下左 田んぼの間に茶畑が 下右 レンコン畑
さらに北へ行くと再び広い道へ出きました。向かい側には任天堂の工場があります。標識を見ると「薗場」という文字。薗場堤というのもあったそうなので、そうするとこの辺りにあったのかな。さらに細い道を入ってった先は「月夜」という地名でした。ロマンチックな地名だなぁ。そうこう言っている間に田んぼの中に。遠くに点々と茶畑の黒い覆いがみえます。レンコンを作っている畑も多くありました。
ワープした人はここからどうぞ。
田んぼを出たら再び、小椋神社に出てきました。いやー歩きましたよ。歩いたら小腹が減ってきたのもう一度、府道へ。
さっき看板を見かけて帰りに行こうと決めていた「お肉のスーパーやまむらや 宇治店」へ。焼肉やバーベキュー用のお肉の専門店なのですが、こちらではお肉を買うとバーベキューコンロなどが無料でレンタルできちゃうのです。
▲近江牛入りすぎコロッケ 139円
そしてこちらはコロッケも美味しいんです! その名も「近江牛入りすぎコロッケ」。牛脂が甘い~。コロッケを食べながら、今度は線路の西側のエリアへ。
▲左上 蓮池通。巨椋池はかつて蓮で有名でした 右上 線路の手前側が巨椋池 左下 今は住宅街に 右下 近鉄電車が何本も通り過ぎていきます
地図によると、この辺りがかつての巨椋池だったところ。でも今は碁盤の目に整備された住宅地になっていました。住宅地図看板を見ると「蓮池」とか「西浦」なんて地名が書いてあります。巨椋池は蓮観で有名な地だったのだとか。地名が歴史を物語っていますね。
駅の西側は魅惑のスポット
そのまま小倉駅の方へ。東側と違って西側には、いい感じの商店街が広がっています。お酒屋さん、布団屋さん本屋さんからクリーニング店など生活に密着した商店と飲み屋街が広がっているようです。魅惑的! まだまだ夜も更けていないので開いているお店が少なかったのですが、夜に来たら、お酒好きにはたまらない町かもしれません。
さらに路地に入っていくとステキな銭湯がありました。あぁ~お湯を浴びて帰りに一杯飲んでいくなんて、いいなあ。でも今日はあきらめて電車に乗ろうとしたら、横に雰囲気のよい蕎麦屋さんを発見。
お名前は「濱屋」さん。こちらでは二八蕎麦がいただけるのですが、メニュー表を見て心がトキメキました。え、こんな所に? というレアな日本酒に一品料理が揃っているのです。お酒は貴重な一四代からや出羽桜、滝自慢などなど、一品は鳥羽の市場にいる知人から毎朝送られてくる鳥羽の魚(お造りが安い)や干物、そして横浜の養豚所の知人から届く、よこはまはまポーク(こちらは、かつとじなどでいただけます)、舞鶴の老舗蒲鉾店・嶋七さんから届く舞鶴極上蒲鉾が板わさなどでいただけます。
▲鴨ロース盛りそば1480円 限定の日本酒が豊富に揃います
あまりにも魅力的な品ぞろえで、どれにしようか迷っていると「一品ばかり召し上がって、お蕎麦にたどり着かない人も多いんですよ」と店長の川見直輝さん。なるほど、みなさんそうなのですね。 駅はすぐそこなので安心して飲めるし、これはいい! ちょっとほろ酔いになって電車に乗ったのでありました。
今回、歩いたみちのり
巨椋神社 京都府宇治市小倉町寺内31
蛭子嶋神社御旅所 京都府宇治市槇島町一ノ坪117-2
蛭子嶋神社 京都府宇治市槇島町石橋
槙島城跡(槙島公園) 京都府宇治市槇島町北内北内156
丸久小山園本店
京都府宇治市小倉町寺内86番地
℡ 0774-20-0909
営 9:00~17:00
休 日曜・祝日、土曜不定休
おにくのスーパーやまむらや宇治店
京都府宇治市小倉町久保51-1
℡ 0774-21-8929 MAP
営 9:00~20:00、土日・曜、祝日は8:00~
休 無休
濱屋
京都府宇治市小倉町神楽田33-8 千歳ビル 1F
℡ 0774-66-4188
営 12:00~14:30L.O.、土日は~15:00L.O. 17:30~22:30L.O.日曜は~22:00
休 月曜