みなさん、この缶詰を知ってますか??
この缶詰は、今年4月以降の出荷総数が23,664缶を超える人気の缶詰「京の鯖(サバ)」。イベント等で売りに出せば、即完売!という大ヒット商品なのです。
この商品を作ったのは…なんと、高校生だというから驚き。しかもこの高校生達は、缶詰に限らず、数々の“うまいもん”や“使えるもの”を作り出し、売りに出せばその評判を聞きつけてたくさんの人が買いにやってくるそう。
今日は、いま他府県からもアツイ注目を集めている、ある府立高校に迫ります!!
という訳で、やってきました!京都府北部の宮津市にある、京都府立海洋高校!
この高校は、その名のとおり普通科の高校とは違う、専門的な教育を行っている水産・海洋系の学校です。
ヒット商品を生み出す教育とは?一体どんな学校なの?…気になることが多すぎる!
京都の地域情報発信を行うKYOTO SIDEとしてこれは取材してみたい気持ちがむくむく湧き上がり、学校に1日密着取材をお願いしたところ、快く了承してくださいました!
いざ、校内へGO〜!!
まるで水族館!珍しい魚がいっぱいの正面玄関
玄関に入ってまずビックリ。そこはお魚天国でした。ここは「魚魚(とと)わ〜るど」と呼ばれているそうです。
魚魚わ〜るどは、海洋高校ならではの部活動「マリンバイオ部」の生徒さん達が、日々メンテナンスを行っているのだそうです。
水温測定、給餌、水槽のお掃除から設備点検まで、365日徹底してお世話をしながら飼育し、生態を観察しています。マリンバイオ部は、河川での生物調査や飼育管理、キンギョやメダカ類などの種苗生産、国の天然記念物であるアユモドキを環境省の許可を得て飼育したり、テナガエビやアユカケの繁殖も行っている本格的な部活です。
ズラリと並ぶ水槽では、いろんな珍しい魚が見られます。
その中には、なんとアマゾンの肉食魚ピラニアまで!!高校でまさかピラニアにお目にかかるとは!笑
学校には地元住民もよく訪れるそうですが、この玄関「魚魚わ〜るど」は、1・2月を除く月1回開催されるお魚MAPスタンプラリーを中心に地元のちびっこ達にも大人気なのだそうですよ^^
海洋高校ってどんな学校?
府立海洋高校は、京都府内で唯一の水産・海洋系高校です。「普通科」ではなく「水産科」。
ここに来る生徒さんは、特色がある学びをしたいなという子が集まってきているそうです。
卒業後に就職をする子もいますが、ここをステップに大学に進学したり、普通科に行ってもいいけど少し専門的なことをしながら、その技術をより高めるための進学を考えているという子も多いそうです。
全校生徒は280名、1学年あたり95名前後の人数です。
1年生の時には「海洋学群」として、全学科・コースの基礎的な内容を学び、どの専門学科・コースに進みたいかを考えます。
2年生から5つの専門学科・コースに分かれて、20名弱の少人数で専門の知識や技術等を学び、研究活動にも活発に取り組み、12月には全国大会で最優秀賞に輝きました。
この5つの専門コースを簡単にご紹介♪
海洋科学科
普通科に近いカリキュラムで学習し、研究活動やプレゼンに力を注ぎ、思考力やコミュニケーション能力を磨きます。
海洋工学科 航海船舶コース
将来船に乗る「船乗り」を育てるコース。実習船「みずなぎ」を活用して、漁業実習や海洋環境調査も行います。
海洋工学科 海洋技術コース
「海の技術者」を育てるコース。海のそばでの土木工事や、海の中での潜水の仕事(海洋土木)を学びます。
海洋資源科 栽培環境コース
「養殖」を学ぶコース。トラフグやホンモロコヒラメなど、さまざまな魚介類を育成し、飼育技術を追求します。
海洋資源科 食品経済コース
「食品の製造・加工・流通」を学ぶコース。新製品を開発したり、高校生レストランで腕をふるったりと実践力を磨きます。
いざ!ヒット商品を生み出す現場へ!!
最初に案内されたのは、食品経済コースの食品製造工場棟です。
長靴に履き替えて、いざ現場へ。そこでは2年生の生徒さん達がスルメイカをさばいている真っ最中でした。
わたし達取材チームを見た生徒さん達はみな手を止めて「こんにちは!」と口々に挨拶してくれました。
プロ並みの包丁さばきを見せる生徒さん達の表情は真剣そのもの。
指導する先生の厳しい言葉が飛び交う中、作業は続いていきます。ただいま、催事に出すイカの一夜干しを作るための下ごしらえ中とのこと。
食品経済コースで作る製品は、自分達の学校で育てたものや加工したもの。そして、地元で使う食材に特化した販売活動を、地元の人達と一緒にやっていく取り組みを行っています。
彼らは、“海の厄介もの”と言われる魚介類を使ったご当地メニュー作りにも励んでいます。
アタマが大きくて硬いため食べることに不向き、利用価値がないとされて獲れてもリリースされていた魚「カナガシラ」の頭等を使って作った「海洋高校 ブイヤベースラーメン」は、一昨年「ご当地!絶品うまいもん甲子園」で準優勝したそう。魚のダイレクトな味と、ペルノというハーブのお酒、トマトが相まった独特の香りを特色とするラーメンだそうで、1・2月を除く毎月1回行われる海洋高校の「お魚MAPレストラン」では定番メニューのため、毎月食べに来られる地元のファンがたくさんいるそうです。地元のホテルがメニューとして採用したりしているそうですよ〜。
冒頭でも紹介した「京の鯖」は、海洋高校食品経済コースの生徒さんに代々受け継がれるレシピで、その都度改良されていく缶詰製品です。
舞鶴港で水揚げされた大鯖と、地元産関西風のまろやかに熟成されたお醤油を使用して開発したサバ缶は、数々のメディアやガイドブック、ホームページ等でも紹介され、今や売りに出せば即完売の大ヒット商品となりました。
現在、売られているのは現3年生が作ったサバ缶。2年生の缶詰実習はこれからだそうで、まさに今から自分たちの代の「京の鯖」を作ります。これまた、どんなサバ缶になるか楽しみですね♪
次に伺ったのは環境栽培コース。「養殖」を学ぶコースですね。
ここでは、2年生の生徒さんによる養殖中のフグの歯切りを見せてもらいました。フグはそのままにしておくと歯が伸びて、ストレスと空腹でお互いの尾ヒレを噛み合ってちぎれたり、死んでしまう場合があるのだそう。フグと言えば「ヒレ酒」が有名ですが、商品価値を保つためにも大事な作業なんだそうです。
麻酔を入れて眠らせたフグの歯をパチンパチンと切っていく作業。初めて目にしましたが、フグ養殖の大事な要素なんですね。これまた1年かけて育成を行い、ふっくらと大きく育ったフグは地元のお料理屋さんなどに出荷されていきます。
海洋技術コースの実習風景も見せていただきました。
彼らが作っていたものは、町からの発注品の「ゴミステーション(ゴミ箱)」。完成したら、実際に市町に設置されるものです。
材料の寸法を図るところからスタートし、イチから全てを作り上げていきます。ゴミを捨てに来る人のことを考えて、何が必要か、どうしたらもっと使い勝手がよい製品になるか、自分たちで考えながらものづくりを行っているそう。
あれ…「海洋技術」の要素は?と思ったのですが、彼等はまず陸の総合実習で技術を学び、その後、水中での授業で作業潜水を行っていくそうです。学校にある水深10mのプールで水中溶接を行ったりもするそうですよ。彼らはダイバー(潜水士)でもあるのです!
「挨拶」と「規律」に込められた、先生の想い
この学校に来てすごく驚いたのは、すれ違う生徒の皆さんが大きな声で「こんにちは!!」と、わたし達に挨拶をすること。これ、ほんとに全員なんです。小さい声や会釈とかではなく(わりといつもの取材パターンではこちら)、とにかく元気いっぱいで、このことに普通にビックリ、そして「なんでだろう?」と気になってしまいました。
海洋技術コース主任の上野先生曰く、
「挨拶が大きいというか、明確な意思表示をするということが、こういう実習では絶対に必要なんです。例えば、こっちがこれからこれをしよう、と言った時に、わかってるのかな?と思わせる反応が一番危険。そういうときに“先生、こうですよね”と復唱したり、“先生、わかりました!”というのが安全の確保に繋がるんです。」
先生御自身、根本は安全の確保だとおっしゃいます。
そのために挨拶があって、意思表示があって、コミュニケーションに繋がっていく。それができなかったら実習できないし、人を育てていく上で挨拶をするということは入学した時からかなり厳しく指導しているそう。
「専門の学びを深めていく中で全てのベースなんです。意思表示はしっかりしなければならないということを高校時代に指導し切ることができたら嬉しく思っています。」
海洋技術コースの実習の現場では、カンカンカンカン、ギュイ〜ン、ギギギギギと凄い音が鳴り響き、溶接の火花も大量に散ります。まさに危険と隣り合わせの現場でした。
実習と言いつつ、ここで行われているのは「実践」。怪我や事故と隣合わせのため、仲間同士の声掛けも絶対に必要なんです。
更に凄いなと思ったのは、生徒達もそういう先生の想いをしっかり受け取っているということ。
ある生徒さんに「ここの先生方の指導は、厳しいね」と言ったところ、「いや、僕たちの身の安全のために必要なことですから」と即答されました。
先生方と生徒達との関係性にも、ちょっとグッときた取材チームです。
とれピチ鮮魚が安く手に入る!海洋高校の「海洋市場」
取材当日は、実習船「みずなぎ」で2泊3日の漁に出ていた航海船舶コースの3年生が帰ってくる日でした。
学校敷地内の桟橋にて、“おかえりなさい”という意味の旗(国際信号)を持った副校長先生と一緒に、お出迎え。
近づいてくる「みずなぎ」は、総トン数258トン、海洋高校が誇る大きな実習船です。航海船舶コースの生徒たちは定期的にこの船で、国内外での航海実習に出かけていきます。
本日は底曳網漁の実習で、大漁だという情報をゲットです。
実習でとれたいろんな魚がトロ箱に入れられて、どんどん船から降ろされていきます。
このとれたお魚はどうするのか…実は、こういう実習船での漁から戻ってきた時に海洋高校では、とった魚を安く、生徒達が自ら地元の人たちに販売する「海洋市場」が開催されるそうなんです!
海洋市場は、開催が決まると、地域にチラシで情報が配られます。
とれたてピチピチの新鮮&旬のお魚が安く手に入るということと、その時その時でとれるものが違い、時にはアンコウなんかの珍しい魚もとれるため、海洋市場はいつも行列ができるほど大人気のイベントです。
本日は約3ヶ月ぶりに開催される海洋市場で、開始時刻は14時ですが一番早いお客さんは2時間も前から待っておられました!
※開始1時間前から、お客さんには整理券が配られます。
14時、海洋市場スタート!
まず、その価格設定に驚きました。タラ500円、カレイ100円、カガミダイ100円、ユメカサゴ100円、イカ2杯で100円…とれピチ鮮魚がこの金額で買えるなんて、これはお安い!!
生徒2人で1人のお客さんをサポートする体制を取っており、ひとりがお客さんに付いて希望の魚をトロ箱から取り、袋に入れてあげて、もう1人が何を買ったという値段を控え、最後にレジで代金を支払います。
魚の調理法についてお客さんから聞かれることもしばしば。「唐揚げにすると美味しいですよ」「煮付けがオススメです」と、すぐに答えられる生徒さん達は、もうすでに立派なお魚屋さん!!
朝から密着させてもらってきましたが、わかったことは、ここで学ぶ生徒さん達はみんな、もう意識は社会人とほぼ同じだということです。
「責任」を自覚した子ども達の未来
自分達の手で作ったものを自分達で売る・・海洋高校の生徒達が日々実践していることです。
その辺にテントを張っての模擬店ではなく、なるべく催事などと連携して売るようにしているのは、生徒に「責任」を自覚させるため。生徒達は店のブランドも背負うことになるため、信用してもらった自信と、“より良いものを作らなくては”という思いとともに、生徒達の接客や説明にも責任が問われます。
日々そのような環境に身を置くことで、子ども達の力は否応なく上がると言います。ヒット商品を次々と世に出せる訳は、ここにあると思いました。
高校3年間は人生の中でも大事な時間。限られた時間と制約の中で、どこまで自分の頭で考え、行動する力が備わるか…海洋高校の教育は子ども達にとって厳しい面もありますが、その頭と力を鍛えられる環境であり、将来どんな道に進んだとしても、きっとこの子たちは社会で力を発揮していくことができる…そんなことを感じた1日密着取材となりました。
府立海洋高校の生徒さん達の今後の活躍を、KYOTO SIDEも応援しています!!
■■INFORMATION■■
京都府立海洋高等学校
京都府宮津市字上司1567-1
TEL 0772-25-0331
海洋市場、お魚MAPレストランの開催は、HPも参照ください。
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