このところ立て続けに、宮津の話をすると「駅前の富田屋だよね~」「出張に行ったら必ず富田屋に行くよ」と言われ続け、「富田屋??」となっていた私。そんなに人気のお店だったら、ぜひ行ってみたい!! というわけで寒さが残る3月下旬のある日、特急はしだてに乗って、いざ宮津へ。突撃してみました。
宮津駅前に行列のできる大衆食堂あり
宮津駅にはお昼12時半前に到着。電話で「うちは行列するからね~」と女将さんに言われて来たので覚悟はしていたのですが、やはりこの行列。冬の宮津駅前とは思えない並びようです。ちょっと暖簾から覗いてみたら写真も撮れないぐらい満員。熱気でむんむん。お昼から熱燗を飲んでいるお父さんたちグループ、カニを食べているグループも。あぁぁ、期待が高まります。
木造の建物にネオンの光が絶妙にマッチ
順番を待つ間、富田屋(とんだや)さんの外観で印象的だったのが駅前ロータリーの角にある、この面取りされた外観とネオン!! 木造家屋に付けられた原色のネオンは、なかなかインパクト大。ちょっぴりミスマッチなところが心をくすぐります。
ちょっと横へ回ってみたら、厨房が。すごいカニの量に干物、貝。こんなに沢山の素材を調理するんですね。そして働いている職人さちの数も多い!! 一体、富田屋さんってどんな料理が出てくるの??
創業は昭和10年代。海の幸料理が楽しめる
実は富田屋さん、今まで雑誌やテレビなどに露出したことがなく初取材なんですって。なんたる光栄。少しぶらぶらと宮津の町を歩くことにして再び戻ってきたのはランチタイムを過ぎた2時。
しかし、まだまだお客さんでいっぱい!
そんな中、ちょうど空いたこちらの雰囲気たっぷりなカウンター席に座ることができました。
電話で応対してくださった二代目の女将さんは今もバリバリ厨房を守っておらますが、現在、一緒にお店を守るのは娘さんで三代目の伊藤有希子さん。創業は有希子さんのおじさんだそうです。有希子さんによると正確な創業年代は分からないのですが「昭和10年にはお店をやっていたみたいです」と言います。
料理は、宮津はもとより舞鶴から伊根の方までの地物の魚が中心。お造りや煮つけ、エビフライや天ぷらもありますし、中華そばやラーメンまでなんでもござれ。
ひとまずテーブルのメニュー表を確認したら、次はホワイトボードに書かれた「本日の刺しみもの 油もの 焼き物 煮物 酢の物」とチェック。みれば、アラの煮つけはなんと250円。こちらは争奪戦です(残念ながら争奪戦からもれました…)。その他、サワラのお刺身は800円、焼きクロメバチは300円といった具合。
しかし何といってもお得なのが焼き魚定食648円、煮付定食648円、あら煮定食540円という驚きの値段の定食。アラが終わってしまっていたのと、せっかく宮津へ来たのだから、ちょっと奮発して刺し身定食1080円に有希子さんおすすめのアサリ貝焼時価(本日は500円)、子持ちカレイの煮つけ、そして熱燗をいただきました。
熱燗をいただいて待つことしばし、おねえさんがアサリを持ってきてくださいました。「これはアサリが入った時だけのメニューなんですよ」と有希子さん。
アサリを蒸したシンプルな料理なのにアサリの旨味がすごい! スッキリとやさしい旨味がメインで、クセは一切ありません。日本海産のアサリのクオリティに脱帽です。
アサリを食べていると、子持ちカレイの煮つけが来ました。今度は驚くほど身がふわっふわ。柔らかいのではなく、ふっくら、ふわふわ。あまりに感動していると有希子さんが「うちは秘伝の調味料や技術があるわけではなく、まず良い材料を仕入れて、それを活かすよういしているんですよ」と横から笑いながら解説。
タレの優しい甘味とカレイの美味しさで箸が止まらない~。そして、お酒が進みます。
大満足のお造りは種類も豊富!
そして真打、刺し身定食の登場。テーブルが一杯になってきました。
本日はマルゴ(ハマチの少し大きいもの)、イカ、カレイ、サザエ、鰆はそのままとタタキの2種類。
わたくし、そのお店の刺身の良さはイカに出るのではないかと思っているのですが、こちらのイカ、素晴らしかったです。香りがよくて甘く、噛むとすっと口の中で溶けていきました。サワラの2種類の造りでいただけるも楽しかったです。
本日の小鉢はイワシ酢。「イワシを酢で炊いたものなのですが美味しいんですよ」と有希子さん。たしかに! 色は濃いけれど辛くなく、濃縮したイワシの旨味が堪能できます。
店内に瓢箪が多いわけ
人心地着いたところで店内を見回すと、瓢箪が多いことに気が付きました。
「初代が瓢箪好きだったんです。そして各テーブルの上に瓢箪を6つずつ下げていまして、これは来てくださったお客様が無病(六瓢)息災でありますように、という想いも込められているんです」とのこと。
この瓢箪には、そんな愛情がこの瓢箪に込められていたんですね。
今や懐かしい純和風旅館も併設されているのです
ところで先ほど、お店の周囲を歩いて見つけた「お宿」のネオンサイン。聞けば、お宿もされているとのこと。せっかくなので、お願いしてお宿も見せてもらうことにしました。
お宿の入口は、食堂の右側。なんだか瀟洒な一軒家のようなステキな雰囲気。
入ると正面が階段、左手がお風呂。案内してくださった、おねえさんの話では2004年の台風23号による豪雨水害の時は、洪水で腰の高さまで浸水してしまったそうで、その時に床などを少し張り替えたのだとか。
階段を上がるとこんな感じ。階段の手すりも素敵ですし、雰囲気もステキ。
中は迷路のように曲がったり、階段を上がったり下りたりしながら奥へ。その間もいくつか大小の客室があります。最大で一部屋8人ぐらいまで泊まれるそう。もちろん2人用の小さなお部屋もありました。
飲んでそのまま泊まるもOK
先ほどの踊り場から階段を登り降りできるようになってるんです。なんと右に行くと食堂に出ることができ、泊り客が食事に降りられるようになっているんです。
「終電を逃したお客さんが、そのまま泊まっていかれたりもするんですよ」
なるほど。美味しい魚を食べてお酒を飲んで、そのまま二階で眠るなんて最高!
床は磨かれてぴかぴか。襖も趣があります。
こちらは一番奥のお部屋。見事な欄間に襖、床の間まで付いています。布団にはパリっと糊のきいたシーツが掛けられ、いつでも泊まれるようにスタンバイ。
ちょっとお風呂ものぞかせていただきました。腰高に黒タイル、上はモザイクタイルが敷き詰められ、湯船はなんと石。水がでるところはライオンの顔になっています。飲んだ翌日、窓から入る朝の光を浴びながら朝風炉なんていいですぇ。お部屋の設えといいお風呂といい、作った方の趣味の高さが伺えます。
モーニングはレトロクラシックな喫茶店で
ちなみに宿泊料は1泊2食付で5000円。
モーニングはお向かいの山小屋風のレトロな喫茶店(なんと、ここも富田屋さんの経営されているお店でした)。
こちらも長岡京のフルールに負けないぐらい、クラシックでステキな雰囲気でした。
味も雰囲気も変わらずに続けていくこと
昭和10年代に食堂からスタートした富田屋さんも創業してから90年近くになります。
「なにより味しいものを食べてもらって幸せになってもらえたらなって思っています。お客様にとっても私にとっても思い出のつまったお店ですしね。変わらないで続けていけたらなと。それに娘も富田屋をやりたいと言っているので、それまではがんばって続けていきたいです」。と有希子さん。
変わっていくことが多い中で変わらないで守っていくことは、とても素敵なこと。そしてこの美味しい魚と雰囲気をいつまでも味わえるのは私たちにとっても嬉しいことです。
宮津に来たら、また来ます。今度は絶対、アラ煮を食べたいです!
富田屋
京都府宮津市字鶴賀2066-56
℡ 0772-22-0015
営 11:00~10:00
休 月曜
交 京都丹後鉄道各線「宮津」駅
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