京都府に長年住んでいながらも京都府庁旧本館を訪れたことが無いという方は、意外と多いのではないでしょうか。ネオ・ルネサンス様式の名建築といわれる旧本館は、まるで西洋の大邸宅のよう。建物内は見学をすることができ、今年(2023年)7月には新しくカフェもオープンしました。今回は、そんな魅力たっぷりの京都府庁旧本館を詳しくご紹介します。
明治時代に建てられた、レンガ造りの府庁舎
まるでヨーロッパのお屋敷のようなレンガ造りの京都府庁旧本館が建てられたのは1904(明治37)年。東京、兵庫についで日本で3番目に建てられた府県庁舎です。1971(昭和46)年まで本館として使われ、現在も執務室として使用。創建時の姿をとどめる現役の官公庁建物としては日本最古のものです。
設計は松室重光氏。施工は京都の名大工・三上吉兵衛氏ら。ちなみに松室重光氏の実家は代々、京都市にある松尾大社、月読神社の神官を務めた家柄なのだそうです。
現在、国の重要文化財に指定されている旧本館は見学することも可能。2階には京都通の集団「NPO法人京都観光文化を考える会・都草」さんが常駐して、建物内を案内しています(詳細は文末を)。今回は特別に理事長の小松香織さんに案内していただきました。
ロマンチックな白亜の階段で写真を
ネオ・ルネサンス様式の名建築といわれる旧本館の正面は、左右対称になった横長の建物で、前に車寄せ、上には石造りのバルコニーが付けられています。写真では左右が切れてしまっていますが、屋根は「マンサード」と呼ばれる形をした屋根が3つ付き、中央の屋根には「ドーマー(採光用の窓)」を備え、「ペジュメント(破風)」には見事な装飾が施されています。
中に入ってみましょう。入ってすぐに出迎えてくれるのが大理石の手すりがついた階段です。この階段、どこから見ても美しく、思わずため息がでるほど素敵です。正面の大きな窓を見ながらプリンセス&プリンス気分で階段を上がっていきます。
階段に付いている丸い鉄の輪は、レットカーペットを留めるためのものだそうですよ。
小松さんによると、ここでNHK朝の連続ドラマ『わろてんか』やドラマ『坂の上の雲』などの撮影も行われたのだとか。ピン! と来られた方、いらっしゃるでしょうか。
旧本館のメインの部屋「正庁」へ
階段を上りきると廊下には赤い絨毯が敷かれています。正面の部屋は、かつて式典や公式行事が行われていた「正庁」です。
正庁の見どころは、なんといっても天井。真ん中は漆喰塗で鏝絵が施されています。また、南側の扉を開けるとバルコニーに出ることができ(ただし現在は閉鎖中)、ここから庁舎前の美しいケヤキ並木を眺めることができます。
セピア色の壁はこのように凹凸がある美しいデザイン。
正庁から隣りの部屋に行く扉の上には、このようなペジュメント(破風)が付いています。小松さんによると格が高い部屋の扉にはペジュメントが付くのだとか。扉を見れば一目で重要な部屋かどうかが分かりますね。
ところで、このペジュメントについている彫刻と同じデザインが旧本館のいたる所にあることに気が付きました。
これらのモチーフとなっているのは「アカンサス(和名:ハアザミ)」という花と葉。ギリシアの国花で、古代より建築やインテリアなどの装飾モチーフとされてきた花なのだとか。ウィリアム・モリスもデザインの中で使っていますし、小松さんによると「帯の文様などでも見ますよ」とのこと。旧本館にはこのアカンサスデザインがいろんなところに使われているので、ぜひ、見つけてみてくださいね。
旧知事室で見つけたヒミツ
2階の南東角は旧知事室です。この部屋を使った知事は第10代目の大森鍾一氏から第34~40代目の蜷川虎三氏までの24人。67年間にわたり使用されました。今年3月に文化庁の建物が東隣に建つまで、この部屋から比叡山や大文字山(如意ヶ嶽)を眺めることができました。
ところで、旧知事室に備えられたこの飾り棚には「村井吉兵衛」と書かれた小さなプレートが付いていました。どこかで聞いたことがある名前だなと思ったら、明治時代に紙巻タバコで財を成し、円山公園にある洋館「長楽館」を建てた人物。この村井氏が府庁建設のために今のお金で1億円も寄付したのだそうです。この家具も寄付の一つで、東京築地にあった杉田屋のもの。杉田屋といえば明治期最大の高級家具製造業者で、宮家や富豪らの家具を調達したことでも有名。村井氏が寄贈した杉田屋の家具は、あと2つあるそうなので要チェックです。
そして、小松さんに教えていただいて驚いたのが暖炉の上ある小さな切り口。よ~く見ると穴の向こうにレンガが見えるんです。旧本館は全体的にレンガ造りなんですね。この穴からは、その構造部分を見ることができます。
また、部屋の隅にはスチームも。旧本館の各部屋にはスチームが配されているのだとか。アサヒグループ大山崎山荘美術館にも各部屋にスチームが付いて驚きましたが、旧本館にもあったとは! こちらではイギリスから船で輸入した4つのボイラーを導入し、セントラルヒーティングになっていたそうです。京都の冬は寒いですからね。
そうそう、廊下の端の黒い部分はリノリウムなんですって。学校の廊下や病院、ダンススタジオの床などに敷いてあるアレです。旧本館は元々、床張りだったようですが、1928(昭和3)年の昭和天皇の即位の礼の際、リノリウムが敷かれたそうです。こんな年代もののリノリウムを間近でみられるとは! そっと押してみたのですが、現在のものよりずっと硬い感じがしました。
豪華客船のような美しい旧議場へ
さて旧本館は中庭を囲むように口の字型に作られて、南側に正庁や旧知事室、北側に旧議場があり、ぐるりと一周歩くことができます。柱が並んだ回廊を歩いていると、まるでヨーロッパの修道院にいるような気分になります。
中庭には沢山の桜の木が植えられていて、春はピンク色に染まるのだとか。中央の「祇園しだれ桜」は、桜守として知られる16代佐野藤右衛門氏が、先代と共に円山公園の祇園しだれ桜の実生木(みしょうぼく。種から育った木)を植えたもの。ちなみに庭は平安神宮などの庭を作った明治の作庭家・七代目小川治兵衞の手によるものです。
さて、ここから先が旧議場です。奥の方の壁には切り込みが入っているのですがこれは、ここからは“正庁と異なる場”ということを表わしているのだとか。京都府庁旧本館の特徴のひとつに、庁舎と府議事堂が一体化していることがあります。建設当時、そのスタイルは非常に珍しく、全国から多くの自治体が見学に訪れたそうです。それを聞くとちょっと誇り高い気分になりますね。
こちらが旧議場。きらびやかで豪華客船のよう。2階の回廊は傍聴席。1階の議員席は5段になっていて、3段までは足元にスチームが入っていたそうです。
美しいシャンデリアは近年の修復で複製されたもの。全部、職人さんによる手仕事だそうですよ。
正面の議長席の後ろはアーチ型をした「アルコーブ(壁面の一部をくぼませた部分)」があり、ここに付けられているカーテンも近年の修復により復元したもの。コサージュの数まで忠実に再現されているそうです。
2階傍聴席に付けられたカーテンは当時と同じく京都市の川島織物さんで作成。川島織物さんに当時の資料が残っていて、それを元に復元されました。
京都府庁旧本館でティータイム!?
この素敵な旧本館に2023年7月、カフェがオープンしました。これは2023年3月に文化庁が府庁敷地内に移転されたのを契機に、府民をはじめ、府庁や文化庁を訪れた方々に「憩い」や「やすらぎ」の場を提供したいとの想いから作られたそうです。
カフェがあるのは1階南東角にある、旧人事委員会室。京都の喫茶店「前田珈琲」が運営し、旧本館が建てられた1904年にちなんで「salon de 1904 (サロン・ド・イチキュウゼロヨン)」と命名されました。アート作品が飾られたな店内は、とてもクラシックな雰囲気。
テーブルやイスの一部は旧知事公舎などで実際に使っていたものだそうですよ。
こちらでは、前田珈琲の看板ともいえる自家焙煎の「スペシャルブレンド珈琲 龍之助」(580円)やパティシエが作るケーキに宇治抹茶をふんだんにつかった「ぷるぷる抹茶パフェ」(1350円)、それにモーニングやランチもいただけます。写真は「ショートケーキ」と「龍之介」。ケーキをのせたお皿は京都の伝統的な焼物・清水焼。クラシックな雰囲気の中、京都の粋(すい)を堪能できます。
いかがでしたでしょうか。写真ではお伝えできない魅力がまだまだたくさんあるので、みなさまもぜひ訪れてみてくださいね。
■■INFORMATION■■
【旧本館 見学予約申込先】
京都府庁旧本館案内所(NPO法人京都観光文化を考える会・都草)
TEL 075-414-5432
開館日 火~金曜、第1、3、5土曜 10:00~17:00(祝日、年末年始は休館)
公開場所 知事室、旧食堂、正庁、旧議場(旧本館内)
費用:無料
※但し、公開場所は、府の事業などの都合により御見学できない場合があります。
【お問合せ】
総務部府有資産活用課
京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町
TEL 075-414-5435
salon de 1904(サロン・ド・イチキュウゼロヨン)
TEL 075-414-1444
営 8:00~17:00
休 土・日曜日、祝日