京都で昨年開催されて話題になったARTISTS’ FAIR KYOTO。アーティスト自らが企画・出展・運営し、京都の文化財を舞台に現代美術を演出するという斬新なアートフェアが、今年も3月2日(土)、3日(日)に開催されます!
開催に先駆け、KYOTOSIDEでは、今回のARTISTS’ FAIR KYOTO 2019で注目の若手アーティストに取材を敢行! 複数の出展アーティストを輩出している伏見のスタジオハイデンバンへお邪魔しました!
古き良き昭和の香り漂うスタジオハイデンバン
スタジオハイデンバンは、2015年に京都造形大学の卒業生5名が、古い工場を自分たちで改装して作ったアトリエ(兼住居)です。
制作用の広いアトリエが欲しかったアーティストの卵たち。物件を探していた時にたまたま見つけた伏見の廃工場は、築60年の古くてボロボロの建物でしたが、理想の広さに加えてお風呂とトイレ完備、駅チカ、景色もよく周囲には100円パンのお店やコンビニ、ホームセンターもあり利便性が良かったことなどから「ここだ!」と思ったそう。
今時なかなか見かけない昭和レトロな雰囲気が漂うスタジオハイデンバン。
名前の由来は、配電盤(はいでんばん)。「アート」と「場所」と「人」を繋ぐハイデンバンとしての役割と意味を込めました。
ここに集うアーティストはみな平面画、つまり「絵画」を主に制作しています。
現在9名の絵画アーティストの若者たちがここを制作拠点とし、ともに切磋琢磨しています。
ARTISTS’ FAIR KYOTO 2019注目の若手アーティスト・西垣肇也樹さん
こちらが今回ご紹介する西垣肇也樹(はやき)さん。
スタジオハイデンバンの立ち上げメンバーであり、油彩や水墨画で作品制作を行うアーティストです。2014年から行われている京都の芸術祭「京都銭湯芸術祭」の仕掛人でもあります。
昨年のARTISTS’ FAIR KYOTOでは出展することが叶わず運営側としてフェアをサポート。当時はやはり悔しい思いをしたそうで、今年は満を持して再挑戦し、見事、公募選抜で6名という数少ない枠の1つを勝ち取りました。
今回のARTISTS’ FAIR KYOTOに出展する西垣さんの作品は、「水墨」。
日本の怪獣をモチーフとし、和紙と墨を使って制作します。
怪獣のフィギュアの尻尾や背中の部分をまず写真で撮り、フォトショップで加工(モヤのような空気感やぼかしなどいろいろ)してから、プロジェクターで白壁に投影させたものを改めて、和紙に描き出します。
モチーフとなっている“日本の怪獣”は、西垣さんが子供の頃から大好きだった存在。
大学院を卒業後、社会に出てから“京都で今しか描けない絵”を探っていく必要がありましたが、学生時代には感じなかった社会の重圧や怯えるような自由と対峙し、描くことが怖くなってしまったそうです。作っていいものがわからなくなった時に、「大好きな怪獣を描いてみよう」と原点に立ち返ることにしました。節目節目に、白黒で絵を描いていたこともあり、素材自体が歴史を持つ和紙と墨で怪獣を描く作風が生まれました。日本を投影された彼は、怪獣としての自我がない存在。そんな彼と主体性が弱い日本人の姿をダブらせ、日本の社会問題を提起しています。
ここ2年くらいは図としての怪獣を見つめ直し、自分のフィルターをより強く通して描き出すことでブラッシュアップしています。具体的には、現代社会のメタファー(隠喩)として、目に見えても実体がないような、SNSで使われる絵文字や言葉が社会の秩序となりつつあることの風刺を描いています。
よくよく見ると、本当に緻密に文字や記号が描かれています。これら西垣さんの作品は、ARTISTS’ FAIR KYOTO 2019にて、間近に見ることが出来ますので、興味が湧いた方はぜひ、会場へ!!
現代のトキワ荘!? ここで暮らしながら作品をつくる若手アーティスト
せっかくなので、気になって仕方ないスタジオハイデンバンの内部を案内してもらいました。
1階には5部屋のアトリエがあり、そのうちの1つが西垣さんのアトリエです。アトリエになる前は資材や重機倉庫として使われていたそうで、100平米のガランとしたスペースを自分たちで仕切って部屋にしたそう。部屋を分けている壁やドア、照明取り付けなど、全部メンバーのDIYで作り上げたそうです。
2階にもアトリエがありますが、アトリエ兼住居として住んでいるアーティストもいるそう!
スタジオ内には、工具もたくさんありました。
アーティストは、美術や工芸作品を作る以外に必要なスキルとして、大工さん的な技術も必要不可欠。
額縁を作成するなどの木材加工、営業や運送、時には秘書のような業務まで、表現に繋がることはすべて自分達でこなすため、「アーティストは総合職です」と西垣さんは語ります。
なんでも出来ないと制作に制限がかかってしまう、そこでクリエイティブが止まるのはもったいない!と、自分たちでこなせることは全部自分たちでやる、を徹底しています。
お風呂付きだというので見せてもらったら、これまた渋い、味のあるお風呂!! 浴槽は昔のヒノキ風呂です。
2階にあるキッチン付きのダイニングスペースは、メンバーが集まるミーティングルームでもあります。ブルーが基調のキッチン周りがレトロでとても可愛い……!
ソファなどの家具は先輩から譲り受けたもの、掛けてある大きな絵画は西垣さんが制作した作品とのこと。
実際にここに住んでいるという方の居住スペースも気になるので、許可をいただき見せていただいたところ、お布団に洗濯物、ガスストーブにヤカン、極めつけは照明が壊れているそうで明かりが付かない……!という、古き良き大学の学生寮のような佇まいでしたが、大きな窓に囲まれてお部屋自体はとても明るく、そしてキレイに使われていました。
この世界観を見ていると、まるでトキワ荘(※東京都豊島区にあった、後に偉大な漫画家となる入居者を多数輩出した木造アパート)のような……そんな印象を受けた取材チームなのでした。
西垣さん達が仲間内でスタジオハイデンバンを作った大きな理由には、自宅では狭くて制作できない、個人でアトリエを借りるとなると金銭面でいろいろ制約が出てくるので、余裕を持って制作にあたるためでした。
人気商売であるアーティストには少なからず年齢の壁も存在します。壁を超えるためには、みんなで協力して制作スペースを持つこと、つまりスタジオを開く必要がある、ということを早い段階で仲間と話し合ったのだそうです。
仲間と一緒にやることで「高め合える場所」に
どの世代でも個人でやりたいというアーティストが多いそうですが、一人で向き合っていると自己の中に入り込みすぎて病んでいったり、時間が経つと辞めていく人も少なからずいると言います。
今の若手アーティスト達は、情報共有できる仲間、喧嘩もできるような共同体を作ることがアートを長く続けていくために必要だと考え、行動しています。ただ、アーティストは自分のことだけしかできない、みんなのために何かを率先して世話することはしたくないという人も多く、アーティスト同士でいがみ合うところがあるのは確かで共同体は成り立ちにくいのが実情の中、笑いながら「昨日も美術論であいつと喧嘩しました」と言い合えるハイデンバンは稀有な場所、新しいモデルのように思えます。
スタジオのメンバーやその友人が集まって、お酒を飲みながらワイワイやるのも、スタジオハイデンバンではおなじみの光景。始まりは京都造形大メンバーでしたが、今は市立芸大や精華大、東北芸工大など京都のみならず全国のさまざまな美大出身者が集っています。
お話を伺ってみたところ、こんな声があがりました。
「他のアトリエの電気が付いていたり、仲間がブレイクして制作に追われている姿を見ると感化されて自分も頑張らなくてはと思う。」
「いろんな人がいるから、やれる。」
アーティストは孤高の個人主義……だと思っていたのですが、1人でやるには限界があることも話を聞いて納得しました。ここでは良き仲間であり、互いにライバル関係も築けており、アーティストとしてお互いに切磋琢磨し、高め合える環境があるようです。
それぞれが考える「現代美術」論を日々実践している若者たち。京都から世界へ羽ばたくアーティストの誕生を、KYOTOSIDEも応援しています!!
■■INFORMATION■■
ARTISTS’ FAIR KYOTO 2019
京都を代表する明治時代に建てられた近代建築(重要文化財)を舞台に、国内外で活躍する旬なアーティストや、注目の若手アーティストの作品が一堂に介する注目のアートイベント。気に入った作品は購入することも可能ですので、“アートを所有する楽しさ”もぜひ感じてください!詳しくはホームページにて。スタジオハイデンバンからは、西垣肇也樹・石原梓・和田直祐の3名が出展予定です。
日時:2019年3月2日(土)・3日(日)
場所:京都文化博物館 別館/京都新聞ビル 印刷工場跡
https://artists-fair.kyoto
西垣肇也樹
http://www.sumarepi.jp/art/
https://www.facebook.com/hayaki.nishigaki
https://www.instagram.com/hayakinishigaki/
スタジオハイデンバン
京都府京都市伏見区淀下津町260-11
https://www.facebook.com/STUDIOHAIDENBAN/
https://www.instagram.com/studiohaidenban/