京都市左京区の岡崎公園に立つ京都府立図書館。クラシカルな外観が印象的な洋館としても有名です。普段、本を借りたり、資料を閲覧したりする京都府立図書館ですが、その裏側はどうなっているのでしょうか。探検に行ってみましょう!
日本の公立図書館第一号
見学の前に少しだけ京都府立図書館(以下、府立図書館)の歴史を解説しましょう。
府立図書館の前身は1872(明治5)年、現在の中京郵便局の東隣に立っていた日本初の公立図書館・集書院(しゅうしょいん)でした。集書院はまもなく閉館になりますが、その後を京都府が引き継ぎ、1898(明治31)年、京都御苑内に府立図書館を設立。そして1909(明治42)年に現在の地に移転。建築家の武田五一(たけだ ごいち)の手によって、フランス・ルネサンス風の洋館が建てられました(写真は岡崎に移転した当時の府立図書館)。
建物についての詳しい解説はこちらをご覧ください ↓ ↓ ↓
一般閲覧室は、2階が映画や映像資料、音楽など音声資料、オンライン・データベースや新聞などの閲覧やインターネットの利用ブースとなっており…
1階と地下1階は、本や雑誌などの閲覧スペースになっています。特に1階は京都関係の資料が多く集められていますよ。
普段、私たちが入れるのはここまで。
ですが今回は特別に、図書館のバックヤードに入ることが許されました。
ガイドをしてくださるのは司書の野原隆之介さんです。それでは早速、図書館の裏側を見学しに行きましょう!
京都府立図書館のマークがイチョウなワケ
最初に訪れたのは、普段は立ち入り禁止の3階です。
ここには、かつて使われていたイスや机、本棚など、貴重な家具類が展示されています。
壁に飾られているのは創建当時の平面図ですね。左上にあるのは府立図書館のマークでしょうか。
「これを見ると、当時から府立図書館のシンボルマークがイチョウの葉だったと分かりますね」と、野原さん。
実は府立図書館が立っている場所は元々、平安神宮の火除け地(ひよけち)だったそうです。イチョウは他の木に比べて葉が厚くて水分量が多く、火に強いとされ、寺社などの境内に植えられることも多い樹。そこで火除けを願ってマークにイチョウの葉を採用し、建物の前に樹が植えたのだと考えられます。
「さらに、ここに移転する際、建物を不燃建造物にすることが条件だったそうで、それで3階レンガ造りの建物が建設されたのだそうです」
※3階は月1回、開催される「館内見学会」で見学することができますよ。
詳しくはこちらを → 京都府立図書館館内見学会
京都府内の図書館を繋ぐ仕組みとは?
今度は1階に降りて「市町村支援作業室」へ向かいます。
なんだか図書館らしくないネーミングの部屋だなあと思って中へ入ると、みなさん忙しそうに本が入ったコンテナを運んでいます。
「ちょうど連絡協力車が到着したところのようですね」
府立図書館では、府内の公立図書館、読書施設や大学図書館などの蔵書を検索できる総合目録ネットワークを作っています。これを利用すると府内のどの図書館が、どのような本を所蔵しているのかが分かるので、読みたい本を最寄りの図書館で申し込み、取り寄せることが可能なんです。これはありがたいシステムですね。
本は、図書館の間を行き来する連絡協力車が最寄りの図書館に運んでくれます。
訪れた時はちょうど車が到着し、積んできた本を下ろしているところだったんですね。
野原さん曰く「府立図書館は、この総合目録ネットワークを整えることも大事な役目のひとつなんですよ」とのこと。
このネットワークを使い、年間約6万冊の本が貸し借りされています。このシステムを利用すれば、読みたい本が遠くの図書館にあっても、あきらめずにすみますね。
司書さんは本の修理もします
こちらはページが破れたり欠損したり、バラバラになってしまった本を修理しているコーナー。府立図書館では本の修理も司書さんたちが行っています。
こちらでちょうど作業されていたのは、本に付いている地図の修復です。セロハンテープで補修されてしまっている部分を取り除き、和紙やでんぷん糊で修復していきます。こうやって大事な本を長く利用できるようにしているのですね。
ビル3階分の高さを誇る近未来的・巨大書庫
続いて地下1階の閲覧室へやってまいりました。自然光が優しく入り、吹き抜けになっているので解放感がある閲覧室です。
いつも書庫にある本の閲覧依頼をする時に利用するこちらの受付カウンター、奥がどうなっているのか気になりませんか?
「それではカウンターの奥へ入ってみましょう」
カウンターの奥にあるのは建て替えの際に導入された自動化書庫で、都道府県図書館としては府立図書館が最初に導入したそうです!
自動化書庫とは本の出し入れ作業を自動で行うシステム。出したい本を端末画面に入力すると、その本が入ったコンテナをクレーンが運んでくれるというシステムです(写真右)。
ですが、コンテナがやってくるこの奥は一体、どうなっているのでしょう…。
「それでは実際に書庫を見に行きましょう」
これは想像を超える光景です! !
図書館のカウンター奥にこのような世界が広がっていたとは……黒い本棚にズラリとならんだコンテナが、なんだか近未来的な印象です。
書庫の高さはビルの3階分。4台のクレーンがコンテナを出し入れしています。
館内には雑誌を含め約135万冊の蔵書があるそうですが、ここには、そのうち約32万冊が収められているそうです。これは圧巻!
4フロアにわたる、迷路のような書庫
自動化書庫に圧倒されつつ、次に訪れたのは電動式移動棚がならぶ書庫エリアです。
自動化書庫に納められている以外の本は、基本的にこちらに収蔵されています。本棚が繋がっているように見えますが、ボタンを押すと棚が動いて中の本が取り出すことができます。
「ここにこんな面白いものもありますよ」と野原さんが取りだしてくださったのは尋常小学校の教科書。中に図書館の使い方について書かれたページがありました。学校で図書館の使い方を教科書で学んでいたんですね。
「その他に珍しい資料としては映画の台本もあるんです。書籍ではないので普通は図書館で収蔵しないのですが、関係者の方が寄贈されたものなのでしょうか。うちで保管されています」
よく見ると石川五右衛門役のところに市川、淀君役のところには若尾と書き込みが(これはもしや往年の大スターの名前!?)。もちろんお願いすれば閲覧することも可能。これは貴重な資料ですね。
ところで、この自動化書庫は地下4フロアにわたりズラリと並んでいます。各本棚には番号が付いていますが、見た目がどれも同じなので、自分が今、どこにいるのか分からなくなり、迷子になりそうです。司書の方は迷子にならないのでしょうか。
「働き始めの頃は迷うこともありますよね」
そのために本棚には分類ごとに違う色のラインを付けたり、東西南北を表示しているのだそうです。
いよいよ最下層、地下2階にやってまいりました。この扉の向こうに納められている本を見るには特別取扱資料閲覧申請書が必要です。特別に扉を開けていただくと、古い本ならではの独特の香りがしてきました。
「ここは古い洋書などを納めている倉庫で、奥には “クルーガー文庫” が保管されています」
クルーガー文庫とは戦後、GHQのクルーガー大将が帰国する際、民主主義的市民教育に役立つようにと、アメリカの学術教科書約500冊を京都市民に寄贈して作った図書館。いわば私立公共図書館のようなものでしたが、残念ながら約4年後に閉館。
「その後、書籍はさまざまな所で保管され、現在は府立図書館で保管しています」
そのような貴重な資料も、収蔵されているのですね。
各コーナーの展示にも注目
各閲覧室では毎回、テーマを決めて特設コーナーが作られるのですが、これが面白いので要チェックです。
ただいま、地下1階では20年ぶりに紙幣が改刷されるのを機に、歴代紙幣に印刷された人物の伝記や、お金の歴史、世界のお金の図録、お金をテーマとした小説など、お金に関する本を集めた「お金にまつわるエトセトラ」企画が行われています。(写真左上)
また、1階の入口を入ってすぐの展示ケースでは「紫式部」にまつわる資料や図書を展示(写真右上)していますし、1階と2階では連動企画として「全部出します!所蔵資料一括展示 第1弾『プロジェクトX ~挑戦者たち~』」を開催(写真下)。こちらは令和6年7月24日(水)までの開催。その後は、どんな企画展示が行われるのか楽しみです。
また、岡崎公園から共に文化を発信してきた府立図書館の南隣の京都国立近代美術館、向かいの京都市京セラ美術館(京都市美術館)の過去10年間にわたる展覧展の図録を展示する「美術館特設コーナー」。中には貸出可能なものもあるので、家でゆっくり眺めたり、読んだりすることができますよ。
いかがでしたでしょうか。まだまだ府立図書館では、できることはたくさんあります。ぜひ、こちらもチェックしてみてください。
閲覧室への入館はどなたでも自由。図書館カードの作成は、京都府民や京都府内に通勤・通学している方、さらに大阪など隣接する府県に住んでいる方なら作ることが可能。みなさまもぜひ、訪れてみてくださいね。
■■INFORMATION■■
京都府立図書館
京都市左京区岡崎成勝寺町
TEL 075-762-4655
開館時間 9:30~19:00、土・日曜日、祝日は~17:00
休館日:月曜日(祝日及び振替休日は開館、翌日が休館)、毎月第4木曜日(祝日は開館)、年末年始(12月28日~1月4日)