全国には古くから伝わるさまざまな神事があり、中には奇祭と呼ばれる独特の習俗を持つものがあります。今回は、京都府南部に位置する久御山町で行われている“暗闇の奇祭”こと「野神の神事(のがみのしんじ)」について、ご紹介します。
「野神の神事」ってどんな神事?
京都府久世郡久御山町の佐古地区で古くから伝わる「野神の神事」。毎年、6月5日の午前0時に執り行われ、悪疫退散と農作物の豊作が祈願されます。神事は灯りを消した暗闇の中で、音を立てず、声も出してはならないことから「暗闇の奇祭」とも呼ばれています。
野神とはもともとこの土地を守っていた神様で、若宮八幡宮の境内西側に古い石塔を積み上げて祀られています。神事がいつ頃始まったのかは不明ですが、かつて京都市と久御山町、宇治市にまたがり存在した巨大な巨椋池(おぐらいけ)周辺でマラリアが流行した際に、地域の人々が野神を祀って疫病退散を祈願したのが起源といわれています。
神事で供えられる神饌にも特徴があり、なんと長さ約1メートルもあるジャンボちまきが供えられてきました。
このちまきは祭りの前日の朝に宮総代や自治会、農家組合の関係者たちによって、餅を筍の皮でくるみ邪気を払うとされる真菰(まこも)に包んでい草で丁寧に縛って作られます。
数年前までは37本のジャンボちまきが作られていましたが、近年、真菰の自生が少なくなったことから従来の大きさのものは3本のみとなりました。残りの34本はまとめて真菰に覆われた形状で木箱に納められます。
用意された3本のジャンボちまきは若宮八幡宮の神前に供えられ、野神神事には木箱に納められたものが供えられます。
なぜ37本ものちまきが供えられていたかは明確ではありませんが、神事が始まった当初は佐古村に37軒の民家あり、古くから神事に用いられ、農作業中のご飯や間食代わりでもあったちまきをお供えすることで、悪疫退散と農作業の安全や豊穣を祈願したことが受け継がれてきたと考えられています。
午前0時になると、宮司と関係者たちの限られた参列者のみで神事が行われます。神前にはちまきと竹の棒に吊るした干しカマス、洗米・塩・味噌・淡竹(はちく)の竹の子3本・ヘクソヅル・箸にみたてた桑の木の棒2本が三宝に載せられて供えられ、習わしにより祝詞は聞こえないほどの微声で奏上され、柏手も音を立てないように打つ“しのび手”で行われます。
現在は防犯上の問題から境内の灯りのみが消灯されますが、以前は街灯や周辺の住宅の灯りも消されていました。
神事が終わると参列者たちがちまきに入った餅を切り分け、夜明けまでに100軒以上ある佐古自治会全戸の玄関前に届けられます。その際も無言で配られ、人と出会っても声を出して挨拶を交わしてはならないといわれています。
代々地域に住む方たちの間では、野神は怖い神さまとして捉えられており、小さい頃から野神さんの敷地の中で遊ぶのは絶対御法度といわれてきました。怖い神様とは、荒々しい神様=パワーのある神様で尊いものとして大切にされており、その想いから「野神の神事」は地域の伝統行事として現代まで受け継がれてきました。
限られた参列者のみで行われる神事のため、神事の様子を見ることはできませんが、このように地域で脈々と受け継がれてきた神事は、その土地に住む人の想いや歴史を知るうえでも大変貴重なものでもあります。
◾️◾️記事協力◾️◾️
玉田神社
住所:久世郡久御山町森宮東1番地
TEL:075-631-2183
拝観時間:自由
拝観料:無料
※野神の神事が行われる若宮八幡宮を兼務されている神社です。