1300年続く日本最大の絹織物産地、丹後地方。江戸時代に始まった丹後ちりめんは、柔らかで風合い豊かな凹凸が特徴の伝統織物です。「シボ」と呼ばれるその凹凸は、横糸に1メートルあたり3000回もの強い捻りを加えることで生み出されるもの。そんな丹後ちりめんを、ポップでカジュアルな普段使いのグッズとしてプロデュースするのが、丹後を拠点に活動する「たてつなぎ」です。
地元企業とのコラボを中心としたグッズからは、郷土愛とノスタルジーがあふれ出んばかり!織物の世界をぐっと身近にする「たてつなぎ」のものづくりについて、運営されてある臼井さんと田中さんにお話を伺いました。
洗濯機OK!毎日使えるカジュアルな丹後ちりめん
「たてつなぎ」を運営するのは、丹後ちりめんの織り手である臼井勇人さん、生地の染色を手がける田中栄輝さん、織物のテキスタイルデザインをおこなう森山怜子さん。
同じ丹後に生まれ育ち、それぞれに織物と携わってきた3人が出会ったのは、まさに縁のなせるワザ。企画デザインから、織り、染め、縫製、販売まで、すべてが丹後内で完結する地域密着のものづくりがスタートしました。
伝統的な丹後ちりめんといえば、やはりシルクのイメージ。商品も着物や風呂敷、帛紗(ふくさ)など若い人には馴染みのない高級品がほとんどでした。そんな丹後ちりめんを「もっと身近なものにしたい」というのが「たてつなぎ」のコンセプト。
そこでラインナップしたのは、ポーチやトートバッグといった日常雑貨的アイテムたち。
シルクの代わりにポリエステルを使用し、丹後ちりめんの中でも最も凹凸が大きい「鬼シボちりめん」を独自の工法で織り、いちからオリジナルのプロダクトを制作しています。
ポリエステルを使うことで価格を大幅に抑えることはもちろん、気軽に普段使いできる機能性も大切なポイントでした。
「シルクの場合、水洗いで色落ちしたり縮んだりするので、一度使ったらクリーニングに出すなどメンテナンスが大変です。でも僕たちの商品はポリエステルなので、洗濯機で洗っても問題なし。また織り方を工夫することで適度に固さを持たせ、丈夫で型崩れしにくいオリジナルの生地をつくっています」
地域ブランドとのコラボで丹後DNAをくすぐる!
たてつなぎの商品の多くは丹後で育った人なら誰もが知っている地元企業とのコラボデザインです。中でも一番人気なのが、「ヒラヤミルクポーチ」。
ヒラヤミルクは、久美浜町にある創業75年の乳業メーカー、平林乳業の看板商品で、学校給食にも採用される丹後の人にとって「母の味」。ポーチには牛のロゴが愛嬌たっぷりな牛乳パッケージがそのままに描かれています。
「自分なら何が欲しいかという話をしていたとき、森山さんがヒラヤミルクのポーチだったら欲しい!って言い出したんです」と臼井さん。
平林乳業にコラボを依頼し、まずは30個限定で販売してみることに。ところがSNSで告知したところ、なんと1時間ほどで完売!予想外の反響に、喜びよりもホッとした気持ちの方が大きかったそう。
20代から60代まで、幅広い層から人気のヒラヤミルクポーチ。ポップな色使いとちりめんの温かい風合いがたまりません。
こちらはスーパー「にしがき」とのコラボトート。京丹後市を中心に15店舗のスーパーを展開するにしがきは、地域の台所的存在です。もちろんオレンジのロゴマークは誰もがお馴染み。
よく見ると、普通のトートバッグとちょっと形がちがう…?
そう実はこれ、スーパーで実際に使われているレジ袋とほぼ同じ形。一番大きなサイズのレジ袋をカットしてパターンを作成し、形もデザインも本物そっくりにつくられています。遠目で見たら区別がつかないクオリティ…!
伊根の舟屋で知られる伊根町を代表する銘酒も、たてつなぎの手にかかればレトロかわいいトートバッグに。
江戸時代から続く酒蔵、向井酒造が醸す日本酒「伊根満開」は、伊根町で特別栽培した古代米を配合した世にも珍しい赤いお酒です。
力強い筆文字と活気ある漁師町の風景が描かれたラベルをそのまま再現したデザインはインパクト抜群です!
デジタル染色で手描きイラストや文字もリアルに
ヒラヤミルク、にしがき、伊根満開…どれもモチーフとなるデザインがディテールまで忠実に再現されていることにびっくり。そこに丹後ちりめん特有の風合いが掛け合わさり、唯一無二のご当地感やノスタルジーが生まれるのです。
オーダーメイド商品は、まさにその高い再現力を生かしたもの。お子さんが初めて描いたかわいいラクガキや、母の日にくれた似顔絵など、手描きの絵や文字がそのままオリジナルのポーチやテキスタイルパネルに。ノートや画用紙に描かれた絵をスマホで撮影して送るだけという手軽さもうれしい!
でも、ちりめんという凹凸のある生地に細かな柄や手描きのタッチをプリントするのって難しいのでは?
西陣織など先に糸を染めてから織る「先染め」と違い、丹後ちりめんは織り上がった白い生地を後から染める工程。たてつなぎでは、最先端のインクジェットプリントによる後染めでカラフルな色や柄をつけています。
「丹後ちりめんの場合、凹凸の内側まで色を入れるため、生地に直接インクを噴射する方法でおこないます。ただ、たてつなぎの商品は凹凸が大きい“鬼シボちりめん”を独自の工法で織り上げた生地。高い凹凸の内側までしっかり染め上げるのは難しく、何度も実験を繰り返してオリジナルのプリント方法に辿り着きました」と田中さん。
試行錯誤の末に生まれたという独自のプリント方法は、緻密な色柄の表現と深みのある色合い、そして色落ち耐性の高さを実現。さらにインクの滲みを防ぐための滲み防止剤を使わないので、薬剤を洗い流す大量の水が必要ないのだとか。丹後の美しい川や海を汚さないという面でも、大きなメリットですよね。
丹後ちりめんに沼らせたい!
たてつなぎの役割として、地元・丹後の人に使ってもらえる商品をつくりたかったという3人。
「織物業で扱う素材はほとんどがシルクという高級品で、どうしても海外市場や都市部のお金持ちにターゲットが絞られてしまう。そうした中で、地元の人の存在が見過ごされているんじゃないかと思ったんです」
地元の人に、そして若い人たちにも丹後ちりめんを使ってほしい。その想いにぴったりハマったのが、地域で長年愛されてきたヒラヤミルクでした。
「僕たちがやっているのは、どちらかといえば丹後ちりめんの格式を下げること。そのためには歴史や伝統の前に、まずプロダクトの面白さを伝える必要がありました。だから、ヒラヤミルクのデザインだから買ってくれて、よく見るとそれが丹後ちりめんだった、ぐらいがちょうどいいなと思ってるんです」
たてつなぎの活動は、丹後織物の「沼」にハマってもらうための第一歩と話す臼井さん。
次はどんなたくらみで私たちを沼らせてくれるでしょうか。今後も目が離せませんね。
■■INFORMATION■■
たてつなぎ
住所:京都府京丹後市大宮町口大野48番地
メール:info@tatetsunagi.com
WEBサイト;https://tatetsunagi.com